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デジタルサプライチェーン崩壊の解剖:アスクルのランサムウェア攻撃と無印良品の機能不全

第1章 エグゼクティブサマリー:日本のEコマースを襲った連鎖反応


2025年10月19日から20日にかけて発生した一連の出来事は、日本のEコマースおよび物流業界に深刻な警鐘を鳴らした。大手Eコマース・物流プロバイダーであるアスクル株式会社が高度なランサムウェア攻撃を受け、基幹システムが完全に麻痺。その直接的な影響として、「無印良品」を展開する株式会社良品計画のオンライン事業が全面的な機能停止に追い込まれた。この事件は、現代のデジタルエコシステムがいかに相互接続され、一つの障害が壊滅的な速度と規模で波及しうるかを浮き彫りにした。

本レポートは、アスクルと良品計画の事例を、単なる二企業の危機管理案件としてではなく、現代のデジタルサプライチェーンに内在する潜在的なシステミックリスクを露呈した重要なケーススタディとして分析する。効率性とジャストインタイムの物流を追求するためのシステム統合が、皮肉にもリスクの伝播経路となり、一社のサイバーセキュリティ上の失敗が、複数の企業を巻き込む商業的な大惨事を引き起こす構造を明らかにする。

本レポートの主要な結論として、特定ベンダーへの過度な依存がもたらす「集中リスク」の危険性、事業破壊兵器へと進化したランサムウェアの脅威、そして静的なコンプライアンス遵守から動的かつ協調的なレジリエンス(回復力)へと、ベンダーリスク管理のパラダイムシフトが急務であることを論じる。この事件は、デジタル時代の企業経営において、サプライチェーンの脆弱性が事業継続性を根底から揺るがす戦略的課題であることを明確に示している。


第2章 震源地での侵害:アスクルへの攻撃の再構築


このセクションでは、アスクルへの直接的な攻撃を証拠に基づき詳細に再構築し、今回の危機の根本的な事実を明らかにする。


2.1 インシデントのタイムラインと初期対応


危機の初動を理解するため、発生から公表までの時系列を詳細に整理する。

  • 2025年10月19日午前: アスクルは、社内システムでコンピュータウイルス「ランサムウェア」への感染を検知した 1。これが、その後数十時間にわたって拡大する混乱の始まりであった。

  • 2025年10月19日18時30分(日本時間): 感染検知から半日も経たないうちに、アスクルは「第1報」として公式発表を行った。ランサムウェア感染の事実を認め、即座に業務を停止したことを公表した 4。この迅速かつ率直な情報開示は、同社の初期危機管理対応の重要な要素であった。

  • 2025年10月20日: 攻撃のニュースとその影響拡大がビジネス関連のヘッドラインを独占する中、同社は「復旧の見通しは立っていない」と認め、事態の深刻さと先行き不透明感を市場に伝えた 1


2.2 オペレーションの麻痺:完全なデジタルシャットダウン


アスクルが下した業務停止の決断は、その範囲の広さにおいて異例であった。これは単なる一部サービスの遅延ではなく、事業の中核をなすデジタルインフラの完全な停止を意味した。

  • 影響を受けたプラットフォーム: 停止措置は、同社の主要な商業プラットフォームすべてに及んだ。

  • 法人向け事務用品通販サービス「ASKUL」 1

  • 個人向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」 1

  • 中堅・大企業向けの購買管理システム「ソロエルアリーナ」 4

  • 抜本的な封じ込め措置: アスクルは、すでに受け付けた注文についてもキャンセル扱いにするという、極めて厳しい措置を取った 1。この判断は、短期的には甚大な収益機会の損失と顧客からの信頼低下を招くものの、さらなるデータ破損や物流の混乱を防ぎ、被害の拡大を食い止めるための必要悪であった可能性が高い。

  • 付帯サービスの凍結: 影響は商品の受発注にとどまらず、返品受付、各種回収サービス、さらにはカタログの申し込みといった付帯サービスにも及んだ 14。これは、攻撃が顧客との接点となるフロントエンドシステムから、物流や顧客管理を担うバックエンドシステムまで、広範囲にわたって深刻なダメージを与えたことを示唆している。


2.3 未解決の疑問:データ窃取の脅威


今回のインシデントにおいて、最も重大かつ未だ解明されていないのが、個人情報や顧客データの外部流出の可能性である。

  • 公式見解: アスクルの公式発表は一貫して、「個人情報や顧客データなどの外部への流出を含めた影響範囲については現在調査を進めており、わかり次第お知らせいたします」という表現に留まっている 3

  • 「二重恐喝」という暗黙の脅威: この慎重な表現の裏には、現代のランサムウェア攻撃の主流となっている「二重恐喝(Double Extortion)」と呼ばれる手口への深刻な懸念がある。この手口では、攻撃者は標的のシステムを暗号化する前に、まず機密性の高いデータを外部に窃取する 18。そして、暗号化解除の身代金要求に加え、「身代金を支払わなければ窃取したデータを公開する」と脅迫する。さらに悪質なケースでは、窃取したデータを使って被害企業の顧客や取引先を攻撃する「三重恐喝(Triple Extortion)」に発展することもある 19。


    したがって、アスクルがデータ流出の可能性に言及しているのは、単なる予防的な注意喚起ではない。同社は、大規模な情報漏洩が発生したかどうかの痕跡を必死に調査している段階にあると考えられる。もしデータ流出が確認されれば、事業停止による直接的な損失に加え、個人情報保護法に基づく行政処分、顧客からの損害賠償請求、そしてブランド価値の壊滅的な失墜といった、桁違いの危機に直面することになる。この問題に関する沈黙こそが、現在進行中の物語の最も重要な部分なのである。

表1:インシデントタイムライン(2025年10月19日~20日)


日時(日本時間)

企業

イベント

主要な詳細

典拠

10月19日 午前

アスクル

ランサムウェア感染を検知

社内システムでコンピュータウイルスへの感染を確認。

1

10月19日 18:30

アスクル

第1報を公式発表

ランサムウェア感染とシステム障害を公表。主要サービスの受注・出荷業務を停止。

5

10月19日 21:00

良品計画

ネットストアのサービス停止を開始

「ネットストアの物流障害」を理由に、閲覧・購入を含む全機能を停止。

20

10月20日 午前

アスクル、良品計画

市場での株価急落

両社の株価が大幅続落。事業への影響と信用の低下が懸念される。

7

10月20日

アスクル

復旧の見通しが立たないことを発表

システムの復旧時期は未定。すでに受けた注文はキャンセル扱いに。

1

10月20日

良品計画

公式見解を発表

原因が委託先のアスクルのシステム障害であることを明記。自社の感染は否定。

21


第3章 ドミノ効果:アスクルの危機はいかにして無印良品のデジタル事業を麻痺させたか


このセクションでは、攻撃の波及効果を分析し、サプライチェーンの一部分における脆弱性が、いかにして他の部分の完全な機能不全を引き起こしたかを明らかにする。


3.1 致命的な依存関係:サプライチェーンの単一障害点


今回の危機が連鎖した背景には、両社間に構築された緊密な、しかし脆弱なビジネス関係があった。

  • パートナーシップの実態: 良品計画は、公式Eコマースサイトの物流業務、具体的には在庫管理や配送の「大多数」をアスクルの子会社であるASKUL LOGIST株式会社に委託していた 24。この関係は一朝一夕に築かれたものではなく、アスクルが運営するLOHACOでは2013年から無印良品の商品が販売されており、長年にわたるシステム的な統合が進んでいたことを示唆している 25

  • 分断されていた物流網: 良品計画は、家具などの大型商品については別系統の物流チャネルを利用していた。しかし、Eコマース売上の中心をなす、物量の多い標準サイズ商品の「大多数」がASKUL LOGISTを経由していたため、この物流網の分断は、主要チャネルが機能不全に陥った際のバックアップとして機能しなかった 24


3.2 物流障害からEコマースのブラックアウトへ


アスクルで発生した障害は、技術的・運営的に良品計画のシステムに直接的な影響を及ぼした。

  • システム的な連鎖破綻: ASKUL LOGISTで発生した障害は、単なる配送遅延ではなかった。同社のシステムは深刻なダメージを受け、注文データそのものを処理できない状態に陥っていた。良品計画の広報担当者は、「新規注文を受け付けても、配送ができないだけでなく、注文データ自体がシステムに記録されない状態」であったと説明している 24。これは、良品計画のEコマースのフロントエンド(顧客が見るウェブサイト)が、パートナーであるアスクルのバックエンドシステム(在庫・注文管理)の正常な機能に完全に依存していたことを露呈している。

  • 良品計画の対応: この致命的な状況を認識した良品計画は、10月19日21時をもってネットストアを全面的に停止する決断を下した 20。停止範囲はウェブサイトでの商品閲覧や購入機能だけでなく、公式アプリ「MUJI passport」の注文履歴閲覧や一部コンテンツ表示といった主要機能にも及んだ 20

  • 戦略的判断: 良品計画は、影響を受けていない大型商品のみで営業を部分的に再開する選択肢を取らなかった。その理由として「一部商品のみでの営業再開は顧客の混乱を招く」と説明しており、限定的な事業継続よりも、顧客体験における透明性と分かりやすさを優先する危機管理アプローチを示した 24


3.3 クライシスコミュニケーションと被害の封じ込め


良品計画の広報戦略は、自社ブランドへのダメージを最小限に抑える上で重要な役割を果たした。

  • 的確なメッセージング: 良品計画の公式発表は、一貫して問題を取引先に起因する「物流障害」と位置づけ、「当社がランサムウェアに感染したという事実はございません」と明確に述べた 20。これは、危機の原因をサイバーセキュリティ問題から切り離し、自社システムの安全性と顧客データの保護をアピールすることで、ブランドイメージを防御するための極めて重要な戦略であった。

  • 事業継続性の確保: 同時に、実店舗はEコマースとは別の物流網で運営されているため、通常通り営業していることを強調した 21。これにより、問題の範囲をオンライン事業に限定し、社会的な不安の拡大を抑制することに成功した。

この一連の出来事は、現代のビジネスにおける「集中リスク」とアウトソーシングの幻想を浮き彫りにする。良品計画は、Eコマース物流という非中核業務を専門パートナーであるASKUL LOGISTに委託するという、効率性を追求する上では標準的な経営判断を下していた。しかし、その業務の「大多数」を単一のパートナーに集中させたことで、典型的な「集中リスク」を抱え込むことになった。結果として、良品計画のEコマース部門のリスクプロファイルは、アスクルのリスクプロファイルと分かちがたく結びついてしまったのである。この事例は、企業が業務を「アウトソース」できても、それに伴うリスクを完全に外部化することはできないという厳しい現実を示している。良品計画は直接攻撃されたわけではないが、事業の中核がほぼ完全に停止する事態に陥った。これは、ベンダー選定と依存度の管理という非技術的な戦略判断が、いかにして壊滅的な技術的・運営的帰結をもたらしうるかを示す、教科書的な事例と言える。

表2:直接的影響と間接的影響の比較分析

項目

アスクル

良品計画

インシデントの性質

直接的なランサムウェア攻撃

間接的なサプライチェーン障害

公式発表における原因

ランサムウェア感染によるシステム障害

ネットストアの物流障害

影響を受けたサービス

・ASKUL(受注・出荷停止) ・LOHACO(受注・出荷停止) ・ソロエルアリーナ(受注・出荷停止) ・返品、回収等の付帯サービス

・無印良品ネットストア(全機能停止) ・MUJI passportアプリ(一部機能停止) ・オンラインでの「無印良品週間」中止

影響を受けなかったサービス

(特になし)

・国内および海外の全実店舗の運営 ・店舗向け物流


第4章 市場の反応と経済的影響


このセクションでは、インシデントがもたらした直接的な経済的影響を定量化し、同時に、信頼や顧客ロイヤルティといった無形の損害についても考察する。


4.1 投資家の反応:不信任の表明


株式市場の反応は迅速かつ厳しかった。これは、事業停止の期間や復旧コストに対する不透明感、そして長期的な信用の失墜に対する投資家の強い不安を反映している。

  • アスクル(東証:2678): 同社の株価は「大幅続落」し、市場開始時には売り注文が殺到して値段がつかない「売り気配」で始まった 7。投資家は、直接的な操業停止、莫大な復旧コストの可能性、そして何よりも「信用力の低下」という無形の損害を織り込み、一斉に売りに出た 7

  • 良品計画(東証:7453): 無印良品の親会社である良品計画の株価も同様に「大幅続落」し、ある報道では一時的に前日比で6.61%下落したと伝えられている 23。これは、市場がサプライチェーンへの依存の深刻さを正確に理解し、Eコマース事業における大規模な販売機会の損失とブランドイメージへのダメージを株価に反映させたことを示している。


4.2 無形コストの評価:信頼と顧客離れ


株価の下落という目に見える損失以上に、長期的かつ深刻なダメージが懸念される。

  • ビジネス機会と信用の損失: サービスの完全停止は、顧客に代替手段を探すことを強いる。特に、日常業務に不可欠なオフィス用品をアスクルに依存していた法人顧客にとって、これは選択の余地のない行動である。彼らは事業を継続するために、競合他社である「たのめーる」や「Amazonビジネス」への切り替えを余儀なくされる 32。事業停止が長引けば、この一時的な顧客離れが恒久的なものとなるリスクは非常に高い。

  • ブランドイメージの毀損: 良品計画にとって、この事件はブランドの核である「信頼性」を傷つけるものとなった。特に、主要な販促イベントである「無印良品週間」のオンライン開催が中止されたことは、顧客の失望を増幅させ、直接的な売上損失につながった 21

  • KADOKAWAという前例: ここで想起されるのが、近年発生した株式会社KADOKAWAへのランサムウェア攻撃である。この事件では、24億円の特別損失が計上され、大規模な個人情報流出も確認された 4。この前例は、アスクルが今後直面する可能性のある経済的損失やデータ関連の二次被害の規模を測る上で、憂慮すべき基準となっている。

この市場の反応は、単一のインシデントに対する評価にとどまらない。攻撃を受けた企業だけでなく、その企業に過度に依存していたパートナー企業までもが同時に市場から厳しい評価を受けたという事実は、投資家がこの問題を単なるIT障害ではなく、事業戦略とリスク管理の失敗として捉えていることを示している。市場は事実上、Eコマースセクター全体におけるサプライチェーンリスクの「再評価」を始めたのである。今後、投資家は、アスクル-良品計画のケースと同様に、特定のパートナーへの依存度が高く、代替策が不十分なビジネスモデルを持つ企業に対して、より厳しい視線を向けるだろう。したがって、この経済的影響は三次的な効果を持つ。すなわち、ランサムウェア攻撃(一次)が事業停止(二次)を引き起こし、それが市場全体でこれまで許容されてきたビジネスモデルの再評価(三次)を誘発した。これにより、サプライチェーンが脆弱だと見なされた企業の資本コストが増加する可能性さえある。


第5章 背景分析:2025年のサイバー脅威ランドスケープ


このセクションでは、視点を広げ、アスクルへの攻撃を世界的なサイバーセキュリティのトレンドの中に位置づけることで、なぜこのような事件がより頻繁に、そしてより破壊的になっているのかを解説する。


5.1 不可避なビジネスリスクとしてのランサムウェア


今回のアスクルへの攻撃は、決して特殊な事例ではない。それは、高度に産業化されたサイバー犯罪エコシステムの必然的な帰結である。

  • サイバー犯罪の産業化: 「サービスとしてのランサムウェア(RaaS: Ransomware-as-a-Service)」の台頭は、サイバー攻撃の参入障壁を劇的に引き下げた 19。これにより、高度な技術を持たない攻撃者でも、専門の開発者が作成した強力な攻撃ツールを利用して大規模な攻撃を実行できるようになった。その結果、ランサムウェア攻撃の件数は世界的に急増している 19

  • 高騰するコスト: ランサムウェアがもたらす経済的損害は、天文学的な数字に達している。平均身代金額は急騰を続け、事業停止や復旧にかかるコストを含めた経済的損失の総額は、世界全体で数百億ドル規模に達すると予測されている 19


5.2 新たな最前線としてのサプライチェーン


攻撃者は、自らの攻撃効果を最大化する「戦力増強装置(Force Multiplier)」として、サプライチェーンを標的にするケースが増えている。

  • サプライチェーン攻撃のメカニズム: 厳重に防御された主要な標的を直接攻撃する代わりに、攻撃者は、取引関係があり信頼されているがセキュリティ対策が手薄な第三者ベンダーを侵害する。そして、ベンダーと標的企業との間の信頼された通信経路を利用して、標的の主要な防御システムを迂回する 18。今回のアスクル-良品計画のケースは、直接的な侵入を伴うサプライチェーン攻撃とは異なるが、サプライチェーンに存在する「脆弱性」が事業全体を麻痺させるという原則を明確に示している。

  • 蔓延する脅威: この攻撃手法は、一度の侵害で数十から数百の組織に影響を及ぼす可能性があるため、現在では各国のセキュリティ機関や専門家によって最上位の脅威の一つとして認識されている 38


5.3 最重要指令:バックアップを保護せよ


現代のランサムウェア攻撃は、被害者が自力で復旧する選択肢を奪うように設計されている。

  • 最後の砦への攻撃: 攻撃者は、企業が有効なバックアップを保持していれば、身代金を支払う可能性が著しく低下することを知っている。そのため、システムへの侵入後、攻撃者の主要な目的の一つは、あらゆるバックアップリポジトリを発見し、破壊または暗号化することである。ある調査によれば、ランサムウェア攻撃の実に89%がバックアップを標的とし、そのうち66%が実際に侵害に成功しているという 33

  • アスクルへの示唆: アスクルが迅速な復旧見通しを発表できなかったという事実は、同社のバックアップおよびリカバリー基盤が深刻な被害を受けたことを強く示唆している。これにより、同社は迅速なデータリストア(復元)ではなく、ゼロからシステムを再構築するという、時間とコストを要する困難な作業を強いられている可能性が高い。


第6章 戦略的必須事項と未来に向けたデジタルサプライチェーンの強化


最終セクションでは、今回の危機から得られる実践的な戦略的教訓を、経営層および取締役会レベルの意思決定者に向けて提言する。


6.1 監査を超えて:継続的なベンダーリスク管理の必要性


このインシデントは、特定の時点でのみセキュリティ状況を評価する、従来型のベンダーセキュリティ監査の限界を露呈した。

  • 静的監査の問題点: あるベンダーが月曜日にセキュリティ監査に合格したとしても、火曜日には新たな脆弱性が発見されたり、設定ミスが生じたりして、無防備な状態になる可能性がある。良品計画の事例が示すように、重要なパートナーのリアルタイムのセキュリティ体制は、事実上、自社のセキュリティ体制そのものである。専門家が指摘するように、委託先が監査に非協力的であったり、セキュリティ対策を「社外秘」として情報共有を拒んだりするケースも課題となっている 38

  • 解決策としての協調防衛: 新たなパラダイムは、継続的な監視、脅威インテリジェンスの共有、そして自社と重要なベンダー間での協調的な防衛演習へと移行しなければならない。リスク管理は、年に一度のチェックリストではなく、常時行われる対話でなければならない。


6.2 レジリエンスのための設計:単一障害点の緩和


良品計画が陥った苦境からの最も重要な教訓は、過度な集中がもたらす危険性である。

  • 障害を前提とした設計: 企業は、重要なパートナーが「必ず失敗する」という前提に立ち、それに対応できるシステムを設計する必要がある。これには、たとえ単一の委託先に集約するよりもコストが若干増加したとしても、基幹業務については戦略的にベンダーを多様化することが含まれる。

  • 事前定義されたフェイルオーバー手順: 企業は、主要な物流・技術プロバイダーが機能停止に陥った場合に、迅速に代替のプロバイダーに切り替えるための、事前に交渉済みの契約と技術的に検証された計画を持つ必要がある。良品計画が部分的な操業さえできなかった事実は、即座に発動可能な実用的な「プランB」が存在しなかった可能性を示唆している。


6.3 取締役会レベルの責務:サイバーリスクの戦略的中心課題への昇格


最終的な結論として、サプライチェーンにおけるサイバーリスクは、事業継続性と株主価値に対する根源的な脅威であると認識されなければならない。

  • IT問題からビジネスリスクへ: 第4章で詳述した経済的影響は、これが単なるCIO(最高情報責任者)やCISO(最高情報セキュリティ責任者)の問題ではないことを、議論の余地なく証明している。取締役会とCEOが、このリスクに対する最終的な責任を負わなければならない。

  • 新たな責務: 取締役会は、単なるセキュリティ計画だけでなく、レジリエンス計画の提示を経営陣に要求しなければならない。彼らが問うべきは、「我々は安全か?」という問いだけではない。「我々の最も重要なパートナーがオフラインになったら何が起こるのか?そして、どれだけ迅速に回復できるのか?」という問いである。アスクルと良品計画の危機は、これらの問いに備えなかった場合に待ち受ける、明確かつ緊急で、そして極めて高くつく代償を、すべての企業に突きつけたのである。



引用文献


  1. 通販大手アスクルにサイバー攻撃 受注停止、無印良品ネット店も, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.47news.jp/13316591.html

  2. 通販大手アスクル、ウイルス感染で出荷停止, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.47news.jp/13316534.html

  3. ランサム被害でアスクル3サイトが出荷停止 - 既存注文はキャンセル対応 - Security NEXT, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.security-next.com/175980

  4. アスクルもランサムウェア感染被害。「ロハコ」を含む複数サービスに影響…システム障害で注文は一律キャンセル, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.businessinsider.jp/article/2510-askul-lohaco-ransomware-attack/

  5. ランサムウェア感染によるシステム障害発生のお知らせとお詫び(第1報) - PR TIMES, 10月 20, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000480.000021550.html

  6. アスクル、ランサムウェア感染で受注・出荷停止 - LOGISTICS TODAY, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.logi-today.com/860841

  7. 【材料】アスクル---大幅続落、ランサムウェアでシステム障害と伝わり - 株探(かぶたん), 10月 20, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202510200313

  8. アスクル ランサムウェア感染でシステム障害 商品の受注・出荷停止 復旧のめど立たず, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.khb-tv.co.jp/news/16101331

  9. アスクル、ランサムウェアによるシステム障害でサービス停止 - INTERNET Watch, 10月 20, 2025にアクセス、 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/2056161.html

  10. アスクル、ランサムウェア被害で受注/出荷停止。LOHACOにも影響 ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/2056220.html

  11. 各 位 ランサムウェア感染によるシステム障害発生について, 10月 20, 2025にアクセス、 https://fs2.magicalir.net/tdnet/2025/2678/20251020575852.pdf

  12. アスクル、ランサムウェア感染によるシステム障害発生 復旧の目処・影響範囲については調査中, 10月 20, 2025にアクセス、 https://eczine.jp/news/detail/17590

  13. アスクル、「ASKUL」「LOHACO」の受注・出荷停止 ランサムウェア感染でシステム障害、「無印良品」へも影響か | 日本ネット経済新聞, 10月 20, 2025にアクセス、 https://netkeizai.com/articles/detail/16264

  14. アスクルとLOHACO(ロハコ)、ランサムウェアによるサイバー攻撃で出荷停止-システム障害の復旧めど立たず - 合同会社ロケットボーイズ, 10月 20, 2025にアクセス、 https://rocket-boys.co.jp/security-measures-lab/askul-and-lohaco-halt-shipments-due-to-ransomware-cyberattack/

  15. アスクルの通販サイトがランサム被害で受注と出荷を停止 注文はキャンセルに - ITmedia NEWS, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2510/20/news053.html

  16. 【重要なお知らせ】アスクルWebサイト ランサムウェア感染によるシステム障害発生のお知らせとお詫び - 株式会社田中文栄堂, 10月 20, 2025にアクセス、 https://t-buneido.com/topics/818/

  17. アスクル---大幅続落、ランサムウェアでシステム障害と伝わり(フィスコ) - Yahoo!ファイナンス, 10月 20, 2025にアクセス、 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/cf8cb4f6120f269e8e1001fbf2bbba5773a45eb9

  18. アスクルがランサムウェア感染で受注・出荷停止、止まらない ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://innovatopia.jp/cyber-security/cyber-security-news/69301/

  19. ランサムウェアのトップ統計と最近のランサムウェア攻撃 [2025], 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.exabeam.com/ja/explainers/information-security/top-ransomware-statistics-and-recent-ransomware-attacks-2025/

  20. 無印良品、ネットストアで“物流障害”閲覧&購入できない影響 | オリコンニュース(ORICON NEWS), 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.oricon.co.jp/news/2413336/full/

  21. 無印良品 ネットストア受注停止に関するお知らせ(第一報) | 株式 ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001736.000000987.html

  22. ネットストアの物流障害によるサービス影響のお知らせ - よくある質問 - 無印良品, 10月 20, 2025にアクセス、 https://faq.muji.com/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A2%E3%81%AE%E7%89%A9%E6%B5%81%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B-656d4e431c58e70026d3c44a

  23. 【材料】良品計画が大幅続落、ネットストアの物流障害によるサービス停止を公表 - 株探(かぶたん), 10月 20, 2025にアクセス、 https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202510200213

  24. 「無印良品」公式EC、注文を全面停止。背景に「アスクル子会社に ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.businessinsider.jp/article/2510muji-official-e-commerce-site-fully-halts-orders/

  25. 【アスクル】 個人向けサイト「ロハコ」刷新、無印良品など導入, 10月 20, 2025にアクセス、 https://diamond-rm.net/flash_news/20143/

  26. LOHACOとは - ロハコ - Yahoo! JAPAN, 10月 20, 2025にアクセス、 https://lohaco.yahoo.co.jp/about/

  27. アスクルは急落、システム障害で受注・出荷業務を停止と発表 投稿日時 - みんかぶ, 10月 20, 2025にアクセス、 https://s.minkabu.jp/news/4354923

  28. アスクル-売り気配 ランサムウェア感染でシステム障害 「ASKUL」など受注出荷を停止, 10月 20, 2025にアクセス、 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/11e1c4f417e2792d35653d6277859dfd80043749

  29. 【株価が動いた理由】日経平均、ソフトバンクグループ、三菱UFJ、良品計画、住友金属鉱山(10/20) | 資産運用の 1st STEP, 10月 20, 2025にアクセス、 https://media.paypay-sec.co.jp/cat2/mj251020_multi

  30. 良品計画が大幅続落、ネットストアの物流障害によるサービス停止を公表 - みんかぶ, 10月 20, 2025にアクセス、 https://s.minkabu.jp/news/4354943

  31. 良品計画が大幅続落、ネットストアの物流障害によるサービス停止を公表 - Yahoo!ファイナンス, 10月 20, 2025にアクセス、 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/892bfcf61fc71ac0c7a519d23e38d957c8405c15

  32. 【マーケッター視点】アスクル出荷停止は、なぜ「最悪のCXクライシス」なのか? ―「明日来る」という最強のブランド・プロミスが崩壊する時―|たけうち@社長の隣のマーケター - note, 10月 20, 2025にアクセス、 https://note.com/takeuchi_posts/n/nfe44df5bfcdf?sub_rt=share_pb

  33. 2025年版ランサムウェア最新動向とプロアクティブ戦略|企業が ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.veeam.com/blog/jp/ransomware-trends-report-2025.html

  34. 【レポート】2025年最新 ランサムウェアの脅威と対策|株式会社シンプレクス・リスク・マネジメント, 10月 20, 2025にアクセス、 https://note.com/simplexrm/n/n94beae66cb04

  35. チェック・ポイント・リサーチ、2025年9月の主要なサイバー脅威を発表 - PR TIMES, 10月 20, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000454.000021207.html

  36. 2025年、ランサムウェアの最前線!知られざる最新被害報告 - KOTORA JOURNAL, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.kotora.jp/c/110122-2/

  37. 2025年のランサムウェアの現状:最大の脅威とトレンド | Splunk, 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.splunk.com/ja_jp/blog/security/ransomware-trends.html

  38. 専門家が警鐘「自社だけ守ればいい」は通用しない:サプライ ..., 10月 20, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2106/24/news001.html



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